大使からのメッセージ

駐ベトナム 日本国特命全権大使
梅田 邦夫

テトが終わり、ベトナムの2020年は、新型コロナウイルス(COVD―19)対策とともに始まりました。大使館では、日々変化する情勢を迅速に把握し、在留邦人の皆様の安全確保のために的確な情報発信ができるよう努めています。

 

私自身は、3年5か月のベトナム勤務を終え、3月下旬に帰国予定です。現在のベトナムは発展のエネルギーに満ち溢れ、日本にとっての重要性は、あらゆる分野で急増しています。この時代のベトナムで勤務できたことは、とても幸運でした。また、この間、皆様から多くの御協力をいただいたことに心から感謝を申し上げます。本日は、日本にとってのベトナムの重要性と課題について、3点述べさせていただきます。

 

1.日本の深刻な労働力不足問題への最大の貢献国

(1)昨年6月末現在、約37万人のベトナム人が日本に居住しています。その内、技能実習生は、この10年間に25倍と急増し、約19万人です。断トツの1位で中国人の2.4倍です。また、ベトナム人留学生は約8万人、中国に次いで2位です。特定技能についても、日本ではベトナムへの期待が一番高いといえます。

ベトナムの若者たちは、深刻な労働力不足に苦しむ日本経済の維持・発展に大きな貢献をしてくれています。

 

(2)その一方で、とても残念なことですが、最近3-4年の間に、国別失踪者(技能実習生)、不法残留、犯罪検挙件数で、ベトナムが1位になっています。この背景には、様々な要因がありますが、最大の要因は、ベトナム人の若者に多額の借金を背負わせて訪日させる日越双方の悪徳ブローカー、留学斡旋業者、送出機関、日本語学校等の存在です。

この問題は、夢を抱いて訪日する若者の人生を傷つけることに加え、二国間関係の基礎である双方の国民感情に暗い影を及ぼしつつあります。

 

(3)そのような認識の下、17年3月以降、大使館は、悪徳「留学斡旋業者」や「送り出し機関」の特定と排除、日越両国の関係当局との情報共有、各地でのセミナー開催など様々な取り組みを行ってきました。

また、本件は2年前から首脳会談の重要テーマの一つとなり、偽装留学生については、大使館のみならず、東京においても様々な対策が実施されています。その一方で、技能実習については、悪徳業者や監理団体を排除する効果的施策の早期実施が必要となっています。

 

2.好調な経済と不安要因

(1)この数年のベトナム経済はとても好調です。成長率は、アジアで最も高い国の一つであり、外国直接投資も高水準を維持しています。

昨年末、GDP再評価の結果、2010年から17年のGDPは平均25.4%増加し、17年の一人当たりGDPは2985ドル(見直し前:2389ドル)と公表されました。再評価をベースにした18年、19年の数字の公表時期は、6月頃のようですが、19年の一人当たりGDPは、3千4百ドルを超えると思われます。

 

(2)投資では、日本の累積投資額は韓国に次いで2位ですが、17年と18年は、それぞれ91億ドル、86億ドルと国別1位でした。19年は大型案件がなく、投資認可額41億ドルにとどまりましたが、投資件数は前年以上であり、また、内需を対象にした投資が増えています。商工会議所加盟企業数は、18年に在タイ商工会議所を抜き、アセアン1位です。

昨年10月、ムーディーズは、事業者等への支払遅延等を理由として、3か月間の観察期間を設け、改善がなければ「投資格付け」を見直すと警告しました。指摘内容は、多くの大使館、国際機関等が改善を求めていた点です。その後、12月末、ムーディーズは、現在の格付けを維持しつつも、見通しを「安定的」から「ネガティブ」に変更しました。ムーディーズの警告により、債務支払遅延は改善したものの、完全解決には至っていません。

 

また、越経済の持続的発展のためには、インフラ整備が不可欠ですが、2年以上の間、大型新規プロジェクトは開始されておらず、心配されました。昨年末、2年半中断していた新規円借款プロジェクト再開が合意されたことは、大きな朗報でした。

 

(4)なお、これまでのところ、米中貿易戦争はベトナム経済にプラスに働いていますが、新型コロナウイルス問題は既に貿易、投資、観光分野で甚大な悪影響を及ぼしつつあります。TPP11および越EU自由貿易協定の効果も期待されます。

また、汚職捜査の影響等から意思決定プロセスが一段と遅延しています。「もめ事」に関する企業から大使館・総領事館への相談件数は、18年、東南アジア地域全体(24公館)で1万1千件でしたが、当大使館への相談件数は、3千件強と最多でした。大使館員は、皆様と共に「もめ事」の解決に向け、一件毎に粘り強く取り組んでいます。昨年、一昨年は、それぞれ50件以上の案件が解決・前進しましたが、新たな「もめ事」が次々と発生しています。取り組みには時間を要し、当地勤務のキーワードは「忍耐」です。

 

3.多くの戦略的利益を共有し、地域で最も信頼できる国

(1)2014年以降、中国が南シナ海に人工島の造成・軍事基地化を進めたことから、地域の安全保障環境は大きく変化しました。また、中国は、安全保障に関し、アセアン分断化にも成功しています。ベトナムは、歴史的背景もあって、強い対中警戒感を維持し、平時は友好関係維持に努めていますが、主権侵犯行為に対しては、断固とした姿勢を貫いています

(2)このような背景の下、東南アジアにおいて、ベトナムは日本にとって「最も信頼できる国」になりました。実際、日越間の安全保障対話、防衛協力、海上警察間協力は、この数年に飛躍的に緊密化しています。この分野における日越、米越協力は、地域の平和と安定維持のために益々重要となっています。

 

最後に、山田新大使に対する皆様の御協力をお願いし、私の挨拶とさせていただきます。3年5か月の間、本当に有り難うございました。

2020年2月